陶磁器の釉薬を施す方法の一つで、素焼きの工程を行わずに、成形しただけの生素地(なまきじ)に直接釉薬をかけて本焼成する技法を指します。
通常、焼き物はまず「素焼き」という低温での焼成を行い、素地の強度を上げてから釉薬をかけます。しかし、生掛けではこの工程を省くため、非常にデリケートな作業となります。釉薬をかける際に器が崩れたり歪んだりするリスクが高く、絵付けを施すことなどもほとんど不可能に近いのです。
この困難な技法は、日本の磁器の歴史において特別な意味を持っています。特に、1616年の磁器誕生からおよそ30年間に作られた「初期伊万里」の多くは、この生掛けによって生み出されました。
未完成で不安定な状態から焼き上げられることで、器体には厚みが出て、釉薬は柔らかで温かみのある質感に仕上がります。それは、手仕事ならではの力強さや素朴さを感じさせる、唯一無二の魅力です。現代の完璧な器にはない、こうした「不完全さ」こそが、多くの愛好家を惹きつけてやまないのです。




