日本磁器の原点――それが「初期伊万里」です。
江戸時代初頭、焼き物の歴史が大きく動いたその瞬間に生まれた、わずか数十年の奇跡。 当時の職人たちが手探りで生み出した技と美意識は、今日の有田焼文化の礎となりました。 本記事では、初期伊万里の特徴や魅力、そして現代へと受け継がれる意匠についてご紹介します。
【INDEX】
初期伊万里とは
「初期伊万里(しょきいまり)」とは、17世紀初頭(1610年代〜1630年代)に有田で焼かれた日本最初期の磁器を指します。磁器の技術は、朝鮮から渡来した陶工たちによってもたらされ、有田・泉山で磁石(陶石)が発見されたことで、日本における磁器生産が始まりました。
このわずか数十年間に作られた初期伊万里は、古伊万里の原点であり、 日本磁器の黎明期を象徴する貴重な時代の作品群です。まだ技術が確立されていなかったため、現代の磁器に比べて素朴で温かみのある表情を持ち、 そこにこそ初期伊万里ならではの美しさが宿っています。
初期伊万里の特徴
当時の作品の多くは、藍色の絵付けが特徴的な染付(そめつけ)でした。しかし、まだ技術が確立されていなかったため、現代の磁器とは少し異なる素朴な特徴があります。
通常は素焼きをしてから本焼きを行いますが、初期伊万里は素焼きの工程がなく、「生掛け(なまがけ)」といって、成形し乾燥させた後に直接絵付けをして本焼きをしていました。そのため、歪みや貫入、指跡なども多く見られます。
不均衡にかけられたやや青みがかった釉薬、厚みのある器、そして鉄分が多く含まれているため鉄粉なども多く現れています。
また現在のように石膏型がなかった上に、ろくろや焼成の技術も未熟だったため、器の形は少し不揃い。しかし、だからこそ生まれた力強く自由な筆遣いは、当時の職人たちの個性を生き生きと感じさせてくれます。
当時の日本には磁器の文化が存在しなかったため、デザインの多くは中国・明時代末期の景徳鎮磁器(けいとくちんじき)を参考にしています。技術指導は渡来した朝鮮陶工によるものでしたが、当時の有田の陶工たちは、見たこともない漢字を用いた絵付けに戸惑ったことでしょう。そのため、誤字や読みにくい文字なども見られますが、こうした「味わい」こそ初期伊万里ならではの魅力の一つとされています。
現代に受け継がれる初期伊万里の意匠
初期伊万里とは、1610年代から1630年代頃までに有田で焼かれた、古伊万里の初期段階にあたる磁器を指します。あくまで江戸時代初期に実際に作られた作品のことであり、現代に制作されたものは含まれません。
一方で、現在ではその風合いや技法を意識して再現した「初期伊万里写」や「初期伊万里釉」といった作品もあり、これらは当時の雰囲気を楽しむために作られた現代のやきものです。




