磁器(じき)とは
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磁器ってどんな焼き物?

磁器(じき)とは、陶磁器を「陶器」「磁器」「せっ器(炻器)」「土器」の4種類に分類したうちのひとつで、石を主原料とする焼き物のことです。

陶器が「土もの」と呼ばれるのに対し、磁器は「石もの」とも呼ばれます。

長石(ちょうせき)や石英(せきえい)、カオリンなどを主成分とする「陶石(とうせき)」を細かく砕いて粘土状にし、高温で焼き上げて作られます。日本を代表する有田焼や波佐見焼も、この「磁器」に該当します。

100円ショップなどで見かける食器も、「陶器」より圧倒的に「磁器」が多いように見受けられます。

磁器の主な特徴

磁器(じき)は、陶器(とうき)にはない優れた特性を数多く備えています。

薄くて軽く、高い強度

磁器は、その見た目の繊細さとは裏腹に、非常に高い強度を誇ります。指で軽く叩くと、まるで金属を叩いたかのように、澄んだ高い音が響きます。

この特性は、磁器製の風鈴で特に際立ちます。他素材の風鈴とは一線を画す、涼やかで余韻の長い、澄み切った高音の音色を楽しめます。

この優れた強度は、日々の家庭での使用はもちろん、レストランやホテルなどプロの現場でも大いに役立っています。業務用食器として幅広く活用され、日々の過酷な使用や洗浄にもしっかりと耐える、非常に頼もしい素材です。

非吸水性で衛生的

磁器(じき)は、陶器(とうき)のように素地の中に目に見えない小さな空洞(多孔質)がないため、水分をほとんど吸収しません。そのため、日々のお茶やコーヒーが器の内部に染み込むことはありません。

表面のガラス質の釉薬に茶渋や汚れが付くことはありますが、液体が器の素地にまで浸透することはないので安心です。この特性を活かし、キッチンハイターのような化学的な漂白剤を使用しても、きちんとすすげば問題ありません。もちろん、食洗機の洗剤や研磨剤が器に染み込むこともありません。

また、磁器は吸水性が低いため、陶器のように使用前に米のとぎ汁で煮沸するなどの「目止め(めどめ)」作業は不要です。購入後すぐに使える手軽さも、磁器の大きな魅力の一つです。

手触りが良く、光を透過

磁器(じき)の表面は、ガラス質の釉薬によってなめらかでツルツルとした手触りを持っています。この繊細な質感が、器を手にしたときに心地よさを与えてくれます。

また、磁器のもう一つの大きな魅力は、その透過性です。薄く作られた部分は、光を通します。この特性を活かした磁器製のランプシェードなどは、灯りを通すことでその美しさが一層際立ち、空間に幻想的な雰囲気を生み出します。

触れて心地よく、見て美しい。この二つの特性が、磁器を特別な存在にしています。

プロユースにも最適な理由

磁器(じき)が多くのプロフェッショナルな現場で重宝されるのは、その衛生面や手入れのしやすさに加えて、優れた実用性が大きく関係しています。

陶器が主に手動のロクロで成形されるのに対し、磁器は石膏型を使った型成形が主流です。この製法により、一つひとつの器が均一な形とサイズを保つことができます。これにより、数年後に買い足す際も、同じサイズと形の器を安定して手に入れることが可能です。

盛り付けや収納の際に、器のサイズが安定していることは、ホテルや席数の多いレストランにとって非常に重要です。料理を美しく見せるための盛り付けや、限られたスペースに効率よく器を収納する際、個体差が少ない磁器は非常に重宝されます。

一つひとつ異なる表情を持つ陶器の魅力も素晴らしいですが、安定した品質と機能性が求められるシーンでは、磁器が最適な素材と言えるでしょう。

「陶器」と「磁器」が混同されるのはなぜなのか?

ここまで読み進めていくと、もしかすると「あれ?私が普段使っているお茶碗は、ずっと陶器と思っていたけど、実は磁器なのでは?」と驚かれる方もいるかもしれません。でもご安心ください。それは間違いではありません。実は、「陶器」という言葉が持つ、特別な役割に理由があるからです。

それは、「陶器」という言葉が、本来の意味である「土もの」だけでなく、文脈によって「陶磁器」全体や、時には「陶磁器」の中に含まれる「磁器」のことだけを指すことがあるからです。

日常生活に潜む「陶器」の別名

私たちの身の回りには、「陶器」という言葉が本来の意味を超えて使われている例がたくさんあります。

有田陶器市

たとえば、佐賀県の「有田陶器市」。ここでは「陶器」という言葉が使われていますが、実際に販売されているのは、磁器がほとんどです。この場合の「陶器=陶磁器」は焼き物全般を指すお祭りの名称として使われています。

女子の憧れ「陶器肌」

また、化粧品業界のメディアや広告で使われる「陶器肌」という言葉も、ザラザラした土のような肌ではなく、まるで磁器のようにツルンとした滑らかな肌、というように「磁器」自体が「陶器=陶磁器」に含まれていることからだと想像します。

「磁器肌(じきはだ)」ではなく「陶器肌(とうきはだ)」になったのは、単に「陶器」という言葉の方が日本人に古くから馴染みがあり、耳にキャッチーだったからかもしれません。

陶器のトイレ

さらに、衛生面が重要なトイレも、陶器ではなく、つるつるとした表面の磁器(特殊素材)でできています。口語では陶器製のトイレなどと言いますが、ここでも「磁器」を指しています。

このように、私たちの生活に根ざした言葉として「陶器」が広く使われることで、本来の定義が少しずつぼやけてしまっているのです。この言葉の多義性こそが、「陶器」と「磁器」を分かりにくくしている一番の理由と言えるでしょう。

日本を代表する磁器の産地

さて、日本には、有田焼や伊万里焼以外にも、全国に優れた磁器の産地があります。

特に知られているのは、愛媛県の砥部焼(とべやき)や石川県の九谷焼(くたにやき)です。

それぞれの産地で独自の発展を遂げた磁器は、その土地ならではの個性的な美しさを持ち、日本の食文化を豊かに彩っています。

この高い耐久性や安定性から、当店、陶磁器セレクトショップ"Studio1156(スタジオイイコロ)"でも、こうした機能性と美しさを兼ね備えた磁器をメインにセレクトし、日々の暮らしからプロの現場まで幅広くご提案しています。